#14 コメ再考D 大規模化の苦悩
■自治会

自給率が40%を切った日本。
国は、ようやく農業の抜本的な改革に乗り出しました。


大規模な農家に支援を集中することで国際的な競争力を強化しようとしたのです。

家族経営から、利益と効率を優先する、会社組織へ。

農家は、大きな変化を迫られています。


しかし、いち早く大規模化に取り組んだ村では、
コメの価格の下落で、経営に行き詰る農家が相次いでいます。

国の改革は、私たちの食を守り、自給率の向上につながるのでしょうか。

農家の90%以上がコメを生産している、秋田県。
美郷町では多くの農家がその政策に生き残りをかけるしかないと決断しました。
高齢化が進み、農家の廃業が相次ぎ、
このままではコメ作りが続けられなくなると判断したためです。

新たな国の政策が、コメの産地を支え、日本の食を守ることにつながるのでしょうか。

大畑地区では、集落全体で、年間400トンのコメを生産。
全国の家庭に届けてきました。

しかし、コメの価格が下がり、農家の収入はピーク時の半分に減りました。

この10年で、コメ作りに携わる人も半減しています。

自治会長の細井さん。
かつての水田が、雑草の生い茂る耕作放棄地になっていくことに、不安を感じています。
高齢化と、後継者不足。
地区の再生を、国が進める大規模化にかけることにしました。


「見たくない。
ここで生まれてここで育ってきた。こういう農地の姿は見たくない。」



6月。
細井さんは大規模化に必要な田んぼの整備計画をまとめようとしていました。


大畑地区では、大規模化の基準となる20ヘクタールを上回る田んぼを集め、
集落営農と呼ばれる組織を立ち上げました。

小さな田んぼを、所有権はそのままにして、
大きな一枚の田んぼにまとめ、大型機械を導入。

後継者不足に備え、少人数での作業を可能にするとともに、
機械を共同利用することで、コストを減らすねらいです。

地区全体で、6000万円かかっていたコメの生産コストを
2割減らせると、計算しました。


田んぼを作り変えることは、集落の暮らしを大きく変えることになります。

コメ作りを続けてきたこの地区では、田んぼの中に、家や墓が存在しています。
確かめてみると、家や墓を20箇所以上動かしてみないといけないことがわかりました。

代々受け継いできた、家や墓。
効率化を図るために、それを動かすことは容易ではないのです。


農業の効率化を進める大規模化。
国は5年以内に、集落を会社組織にするよう求めています。

その代位一歩として今年から始まった国の制度を利用し、
水路の清掃に賃金をだすことにしました。

支給額は、1時間850円。
参加人数は去年のおよそ2倍に増えました。
これまで手弁当で参加してきた共同作業。
それが、賃金をもらう仕事に変わることに、違和感を覚えるという声も上がりました。

「毎年集まってやっているんだ。
金を払うと言えば、人も余計に集まる…
なんだそりゃ。」

しかし、集落でコメ作りを続けていくには、
これまでのやり方を変えることもやむをえないと、細井さんは覚悟していました。


「このままコメの価格が下がっていけば、もうだれも農業をやらないから、
水路の水も流れないだろうし、この地域に人がいなくなるだろう。
変わっていかなければ、やっていけない。」



大畑地区では、集落営農の効率を上げるため、
それぞれの農家に仕事を割り振ることにしました。
しかし、だれがどんな仕事を担うのか決めることは、簡単なことではありません。


コメ作りをしながら畜産業を営む高橋さん。
草を刈り取る大型機械を、ただひとり所有しています。

集落では、効率を最優先し、
機械が入る場所は、すべて高橋さんに刈り取ってほしいと依頼しました。

しかし高橋さんは、
「協力したいが、畜産の仕事もあるので、すべてを受け入れるのは難しい」
と断りました。

集落の会合で、
細井さんは、集落営農を軌道に乗せるために
無理を聞いてほしいと頼みました。

「草刈は集落営農のなかで処理していかねばならないことだ。
お金を出すから、あなたにも協力してもらわないといけない。」

「集落営農から外れるのなら、それも仕方がない」

「これはだれだれのだ、これは俺のだ、と言うと、
集落営農は成り立たないと言っているだけだ。
まとめて作業料として払うから、それでいいじゃないか」


集落の利益と、個人の利益の折をどうつけるのか、
集落営農が抱える課題に、この日答えは出ませんでした。


7月
細井さんは3ヶ月かけて練り直した田んぼの整備計画を農家に相談しました。
家や墓を動かさずに、集落全体の収穫量を増やすのはどうしたらいいのか。

細井さんの計画では、
田んぼの水周りを改善するため、水路をひろげることにしました。

その結果、水路から離れた場所に田んぼを移すことになる農家からは、
不満の声が上がりました。

さらに計画では、工事費として一件当たり100万円の工事費。
年間の農業収入を大きく超える額です。


「今まで通りにやったらいい。
下手に借金して、そのお金はどこから出てくるの?」


結局、計画の一部は修正することになりました。


全国で、大規模化を進める国の政策を利用したいという申請は、
田んぼの面積から言うと、4分の1にとどまっているままです。



8月
大規模化を進める大畑地区に、思いもよらない情報が伝えられました。

今年、農協が支払うコメの価格が、大幅に下がるというものでした。
去年より、4割低い価格です。

細井さんは、集落で共同購入した肥料や機械の代金を支払えなくなると危惧しました。

「出ばなをくじかれるような格好になる。
やはり、今の集落営農離れ、農業離れが起きる可能性がある。」

情報を聞き、集落の農家が集まりました。

「たちまち崩壊する。稲作農家は。」
「安くないと売れないからとどんどん米価が下がっていけば、
あるとき突然、農業をやめなければならない。」


このままでは、大規模化への努力は無駄になってしまう。
集落の先行きに不安が広がっていました。


9月中旬
大規模化の田で使おうと購入した、新しいコンバインが届きました。

しかし、集落の田んぼを整備する目処は、まだ立っていません。

注文したコンバインは、全部で3台。
集落の負担は、1000万円を超えることになります。


「これを償還、返済していくことになれば、非常に厳しいものがある
いずれ、前に進んでいかなければこの地域はなくなってしまう。」



(2008.3.13)


引用
NHK「ライスショック」